体の中で「働かなくなったのに死なない細胞」が生まれると、どうなるのか。最新科学が解き明かす老化のしくみを探ろう。
細胞老化とは
私たちの体は約37兆個の細胞でできています。細胞は通常、分裂して増え、古くなると「アポトーシス(細胞死)」という形できれいに消えていきます。
ところが、一部の細胞は傷ついたり、ストレスを受けたりすることで、「分裂もしないし、死にもしない」という特殊な状態になります。これが老化細胞(Senescent Cell)です。
老化細胞が生まれるまで
紫外線・活性酸素・タバコなどでDNAが傷つく
細胞ながん化のリスクを感知して緊急停止
分裂を止め、アポトーシスも拒否した状態に
周囲に炎症シグナルを出し続ける
がん化を防ぐ、傷の修復を助ける、胎児の発生を助けるなど、体にとって重要な役割がある。
年をとると免疫の除去力が下がり、老化細胞が体中にたまって炎症を引き起こす。
SASPとは — 老化細胞の「毒ガス」
老化細胞は周囲に向けて炎症性の化学物質(サイトカインなど)を大量に分泌します。これをSASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)と呼びます。まるで「助けて!」と叫び続ける細胞のようなイメージです。
炎症性
サイトカイン
プロテアーゼ
(細胞外マトリクス分解)
成長因子
(がんを促進する恐れ)
老化細胞と病気のつながり
動脈硬化のプラーク(血管の詰まり)に老化細胞が多く見られ、炎症を悪化させる。
アルツハイマー病患者の脳では老化細胞が増加。神経の炎症(ニューロインフラメーション)を促進する。
変形性関節症の軟骨に老化細胞がたまり、軟骨を分解する酵素を出し続ける。
肺線維症や腎不全など、臓器の線維化(かたくなる病気)にも深く関与している。
最前線の治療研究
老化細胞だけを選んで除去する薬のことをセノリティクスと呼びます。ダサチニブ(白血病の薬)+ケルセチン(植物由来の物質)の組み合わせが有名で、現在ヒトへの臨床試験が世界中で進行中です。「老化を治療できる病気にする」という夢が、現実になりつつあります。
ちょっと考えてみよう
老化細胞 = 分裂も死にもしない細胞。ストレスでDNAが傷ついた結果生まれる。
SASPという炎症物質を周囲に撒き散らす。それが老化・病気の原因になる。
セノリティクスで除去できる可能性がある。老化が「治療できる病態」になる未来が近いかもしれない。